杉田久女句集 187 父納骨法会
屋根石に炊煙洩るゝ豆の花
父の忌林檎二籠鯉十尾
夏雨に母が爐をたく法事かな
茄子煮るや爐邊に伏せし大十能
[やぶちゃん注:「十能」炭火を載せて運ぶための柄のついた器またはスコップ状の火搔き。
季語としては冬であるが、ここは「茄子」が季語で夏。]
夏爐邊に電燈ひきし法事かな
目にしみて爐煙はけず茄子の汁
雨暗爐煙籠るすゝけ哉
風呂焚くや梁に漂ふ榾煙
茄子買ふや框(かまち)濡らして數へつゝ
夏雨に爐邊なつかしき夕餉かな
屋根石にしめりて旭あり花棗
[やぶちゃん注:久女の父廉蔵の祥月命日は十二月七日(大正七(一九一八)年)であったが、この大正九年の信州松本城山墓地への納骨は前書にあったように八月のことであった。]