日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十一章 六ケ月後の東京 32 日本の下男は皆万能たること
日本の召使いの変通の才は顕著である。私は四人雇っているが、その各の一人は、他の三人の役目をやり得る。先日私は、ボーイと料理番とに、芝居へ行くことを許した。すると唯一の女の召使が、立派な正餐をつくり上げた。人力車夫でさえも、料理をし、自動回転窓掛をかけ、その他類似のことは何でもやり、又私が大がかりな晩餐をやる時には、素足で入って来て、花を実に見事に飾るので、我々は彼の技能に驚いて了う。彼は庭園の仕事を手つだい、用があれば何時でも飛んで行き、そして皿を洗うことを、彼の義務と心得ているらしい。一寸いうが、彼は皿を只の一枚も割ったり、欠いたりしたことがない。
[やぶちゃん注:「変通」「へんつう」と読む。その場その時に応じて自由自在に変化・適応してゆくことをいう語であるが、私は使ったことはない。失礼ながら最早、死語に近い感じがする。原文は“versatility”で多才・多芸・多能の意。
「自動回転窓掛」原文は“self-rolling curtains”ブラインドのことかと思われる。但し、当時のそれは木製であったと思われる。]