右を見て左を見て 山之口貘
右を見て左を見て
ミミコのことを
おつかいに出すたんびに
右を見て左を見てと
念をおすのだが
家のすぐまんまえが通りになっている
あめりかさんの自動車の
往ったり来たりがひんぱんなのだ
通りを右へ行くと
石神井方面で
かれらの部落がその先にあるというのだ
左は目白廻りで
都心へ出るのだ
ミミコは買いもの籠をかかえて
いつでもそこのところで立ち止るのだが
右を見て左を見てまた右を見て
それからそこの通りを
まっすぐに突っ切るのだ。
[やぶちゃん注:【2014年7月7日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証した際、旧全集のミスを発見、本文を訂正、さらに初出注を追加した。】思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」では末尾に句点があり、旧全集にはない。これは旧全集のミスと判断し、最後に句点を配した。初出は昭和二八(一九五三)年十二月発行の『婦人朝日』。この詩には幾つかの疑問点・不審点がある。向後、調査検証を継続する。]