在 山之口貘
在
土地のものには馬鹿ていねいに
藁の上草履を出してすすめるのだが
疎開のものには知らぬ顔なのか
こんなふうにしてぼくなんぞ
どこに来ても粗末にされてしまうのだと
床屋のおやじのすることを見て
ぼくは正に誤解していたのだ
おやじはいかにも
うまいことを考えたもので
馬鹿ていねいには見えてもそれが
板の間を汚されないための上草履であって
土地のものらがみんな
野良からそのままの
泥んこの足で来るからなのだ
[やぶちゃん注:【2014年7月22日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。注を一部改稿した。】初出は昭和二三(一九四八)年八月号『世界文化』(発行所は東京都中央区銀座「世界文化社」)。掲載誌の標題は「農村風景 在」。]