口のある詩 山之口貘
口のある詩
たびたび出かけて
出かけるたんびに
借りて来ない日はないみたいで
借りて来る金はそのたんびに
口のなかにいれるので
口のために生きているのかと
腹の立つ日がたびたび重なって来たのだ
その日それで口を後廻しに
わめき立てる生理に逆らいながら
ペンを握って詩を夢みていたところ
おもいなおしてひそかに
これまでの借りを調べてみたのだが
住宅難も口のせいみたいなものか
十坪そこらの家ならば
すぐ建つ筈の
借りを食っているのだ
[やぶちゃん注:【2014年6月28日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。初出注を追加した。】初出は昭和三二(一九五七)年六月号『小説新潮』。]