飯田蛇笏 靈芝 昭和八年(四十四句) Ⅲ
霸王樹に卯ノ刻雨す五月かな
[やぶちゃん注:「霸王樹」サボテンの別名。「卯ノ刻」朝午前六時頃。]
菖蒲ひく賤の子すでに乙女さび
[やぶちゃん注:「菖蒲ひく」は「あやめひく」で、端午の節句に用いるショウブを刈り取ることをいう、夏の季語である。男の子の節句と「賤の」「乙女さび」て見える娘子という取り合わせが得も言われぬ情感を醸し出してよい。]
子を抱いてさかゆきにほふ寢蓙かな
[やぶちゃん注:「さかゆき」月代(さかやき)。ここでは男児の額の生え際の毛を指している。所謂、赤ん坊や幼児の和毛(にこげ)で、これは私は個人的に偏愛する対象であるが故に非常に好きな句である。無論、抱いているのは若き母でなくてはならぬ。]
遊船に陽は靑々と灼けにけり
深窓にそだちて愛づる花火かな
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