利根川 山之口貘
利根川
その流域は
すでに黄ばんでいた
水はだんだん
にごってきた
水はだんだん
盛りあがった
水は鉄橋とすれすれにながれた
人はまるで
わん公がするみたいに
土手のうえまでかけのぼり
水の様子を見ていたのだが
かけおりて来て
またかけのぼった
[やぶちゃん注:【2014年7月21日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。注を一部追加した。】初出は昭和二三(一九四八)年十月十九日号『新大阪』。清書原稿では四行目「にごってきた」が「にごって来た」となっている。]