利根川 山之口貘
利根川
水はすでにその流域の
田畑を犯して来たからなのであろう
あちらにかたまり
こちらにかたまりして
藁屑や塵芥がおしながされて来た
藁屑や塵芥にはおびただしいはどの
いなごの群がしがみついて来た
鉄橋はまるでその高さを失ってしまって
かれらの小さな三角頭でさえもが
いまにもあやうくぶつかりそうなのか
そこにさしかかっては
飛沫をあげるみたいに
いなごの群が一斉に舞いあがった。
[やぶちゃん注:【2014年7月12日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証した際、旧全集の誤植を発見、本文を訂正、さらに注を改稿した。】思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」では最後に句点があるが、旧全集にはない。新全集を採る。初出は昭和二五(一九五〇)年八月十三日附『佐賀新聞』。新全集によれば掲載誌でのタイトルは「水の風景」で、書名は「山之口ばく」とあるとする。]