中島敦 南洋日記 二月六日
二月六日(金) 晴 ペリリユウ
昨夜眠れず。校長の家の萬年床の臭きがためか。二時間目、國語授業見學。三時間目、學藝會練習見物。一年生のネズミのチヱの小鼠共面白し。その他モモタラウ等。四時間目、到頭一寸した話をさせられる。
午後、三年生シンイチなる者を案内にガルドロルク(ガルドローコ・)部落見學。電信隊を過ぎて、マングローブ多き海岸に出づ。海水赤黑し。水中の石の道を渡り、林の中を通りつて歸る。暑し。低空飛行。飛行機鳥。パンの木。實少し。鸚鵡のゐる村長の家。アバイ。人面の模樣。シンイチと戰爭の話をする。東京の話も。三時近く歸る。ひるね。夕方、生徒等、手に手に椰子蟹を提げつゝ來る。支廰の司法主任とか、他二三人と會食。雞と蟹、旨し。遲く風呂を貰ひに來るサーカスの親方。
[やぶちゃん注:「ネズミのチヱ」昔話らしいが不詳。
「シンイチ」日本名であるが、やはり現地の少年であろう。
「ガルドローコ・」最後の中黒点はママ。]
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