篠原鳳作句集 昭和一〇(一九三五)年十二月
自嘲
よきひげもチョークまみれのピエロ我
晴れし日も四角な部屋にピエロ我
口笛を吹くも叱りてピエロ我
口笛を吹くもしかりてピエロ我
[やぶちゃん注:前者は十二月発行の『天の川』の、後者は同月発行の『傘火』の句形。]
いかりては舌のかはきつピエロ我
採點簿いつも放たずピエロ我
[やぶちゃん注:『傘火』『天の川』に載る連作「自嘲」であるが、最初の「よきひげも」の句は『傘火』のみに所載する。ここまでの六句は十二月の発表句。
……鳳作の「ピエロ我」句群はかつて教師をしていた私には、殊の外痛感出来るものである。教師という存在は所詮――生徒という観客に見られる動物園の檻の中の獣に過ぎず、教壇という安舞台上のチョークまみれのしがないピエロでしかない――いや、それでこそ教師ではないか?――などと昔から私はそう思い続けていたのである……]