飯田蛇笏 靈芝 昭和八年(四十四句) Ⅵ
仰がるゝ鳶の破れ羽や秋の風
道中の側女(そばめ)もはべり西鶴忌
[やぶちゃん注:井原二万翁西鶴の忌日は陰暦の八月十日で「西鶴忌」は秋の季語。因みに昭和八(一九三三)年のそれは新暦の九月二十九日金曜日に相当した。]
切株において全き熟柿かな
足尾銅山、二句
機關車に雲や鴉や秋の山
草もなく嶽のむら立つ狹霧かな
窈窕と吾妹はゆけり歳の市
[やぶちゃん注:老婆心乍ら、「窈窕」は「えうてう(ようちょう)」美しく、しとやかなさま。上品で奥床しいさまをいう。]
月讀の炎をわたりゐる大火かな
火事鎭むゆらめきありて鼻のさき
銀懷爐戀たんのうす奴かな
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