花曇り 山之口貘
花曇り
つまりこれが
五十肩とかで
男の更年期障害だと云うのだ
なにしろ両肩の関節が痛み
服を着るにも一々
女房やこどもの手を借りるのだ
まったくこの事の
不自由なこと
電車に乗っても吊革に
この手がのびない始末なのだ
それでその日も腰をかけるために
満員の電車を見送ったあとなのだ
ホームの端に突っ立って
五十肩になりすましていたところ
ふと柵外に眼をやると
そこの路地裏に猫が群れているのだ
けんかにしてはひっそりしすぎるので
猫らしくもないとおもったのだが
四組になってそろいもそろった
若い猫達の
あべっくなのだ
[やぶちゃん注:【2014年7月1日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。初出注を追加した。】初出は昭和三二(一九五七)年三月発行の『月刊 三和家庭グラフ』第三号。同誌は三和銀行発行のグラフ誌と思われる。]