養鶏場風景 山之口貘
養鶏場風景
南の基地の島から来たばかりの
眼だけが光るその男が言った
なんと言っても
さすがは東京なのだ
のっぽの奴らまでがいかにも
おとなしそうに歩いていると言った
そっちの眼のせいじゃないかと言うと
のっぽはのっぽにしてもなんだか
基地のは種がまるで別みたいで
偉張り散らしているばかりか
気質が荒くてやり切れないのだと言う
東京あたりはレグホンで
基地の島のがシャモなのかと言うと
男はふとそこに立ち止ったのだが
おとなしそうな奴ではないかと
顎で眼の前をしゃくってみせるのだ
[やぶちゃん注:初出は昭和三二(一九五七)年二月十二日附『沖縄タイムス』で、同年五月一日発行の『パアゴラ』第二号に再掲された。『パアゴラ』は昭和三二年に荻野彰久氏が東京都文京区上富士前町を発行所として創刊した雑誌。愛知県豊川市「共立荻野病院」公式サイトで彰久氏の御子息で院長の荻野鐡人氏が「パアゴラについて」というコラムを書かれており、それによると丸山薫の自然科学方面の医人と精神文化方面の作家や詩人とがくつろいで話し合える喫煙室のような雑誌をと望んで父君が発刊されたものとあって、寄稿した作家は丸山薫を始めとして中川一政・竹中郁・村野四郎・桑原武夫・北川冬彦・室生犀星・山之口貘・亀井勝一郎・結城哀草果・更科源蔵・神保光太郎・深尾須磨子・三好達治・田中冬二・小野十三郎・島崎敏樹・尾崎一雄・田宮虎彦・大木実・山口誓子・藤原義江・城山三郎・棟方志功・小堀杏奴・安西冬衛・田中克己・中河与一・高橋義孝・木山捷平・保田与重郎・木下夕爾・串田孫一・藤枝静男・小高根二郎・堀口大学・稲垣足穂らの錚々たる文人墨客らが寄稿、昭和四〇(一九六五)年十二月の第十四号で終刊したとある。因みにこの『「パアゴラ」というのは花園にある、蔓ばらなどを這わせるための、木などで組んだアーチのこと』とある。【2014年月日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。新全集は清書原本によるが、異同はない。】]