無銭飲食 山之口貘
無銭飲食
飲んだり食ったりの
あげくのはてなのだ
かれはおつりがくるつもりで
ぽけっとのなかに手をいれてみると
ある筈のその金がないのだ
しかしあのときにたしかに
ぽけっとにおしこんでおいたのだと
もういちどかれは手をいれてみるのだが
金は街なかで拾った筈の金
どうやら昨夜見たばかりの
夢の千円札を探しているのだ。
[やぶちゃん注:【2014年7月3日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証した際、旧全集の誤りを発見、本文を訂正し、さらに本注を追加した。】初出は昭和三〇(一九五五)年三月号『文藝春秋』。底本とした旧全集では最終行の句点がないが、思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」によって補った。]