年越の詩(うた) 山之口貘
年越の詩(うた)
詩人というその相場が
すぐに貧乏と出てくるのだ
ざんねんながらばくもぴいぴいなので
その点詩人の資格があるわけで
至るところに借りをつくり
質屋ののれんもくぐったりするのだ
書く詩も借金の詩であったり
詩人としてはまるで
貧乏ものとか借金ものとか
質屋ものとかの専門みたいな
詩人なのだ
ぼくはこんなばくのことをおもいうかべて
火のない火鉢に手をかざしていたのだが
ことしはこれが
入れじまいだとつぶやきながら
風呂敷包に手をかけると
恥かきじまいだと女房が手伝った
[やぶちゃん注:【2014年7月3日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。注を一部追加した。】初出は昭和二九(一九五四)年十二月二十九日附『産業経済新聞』夕刊。バクさんが詩題でルビを振っているのは(児童詩類には発表初出にはルビが振られていた可能性は高いが)、この一作のみ。
松下氏の「稿本・山之口貘書誌(詩/短歌)」の注記には「年の暮」という詩題が見えるが、これは思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」解題の凡例や沖繩県立図書館の山之口貘文庫の解説などから判断すると、草稿原稿のない本詩には、別にある総ての詩題を記したそれに初期標題のみが残されており(山之口貘文庫に山之口貘自筆原稿で「山之口貘著『鮪に鰯』編纂用詩篇自筆目録」というものが三種現存するとあるから、ネットで画像公開されていない二種の資料の中にそれがあると考えられる)、この詩は元は「年の暮」が当初の予定標題であったということを指すもの、と思われる。「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」の解題にはこの「年の暮」の原題記載はないが、恐らくは第四巻で示されるものと思われる。]
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