篠原鳳作初期作品(昭和五(一九三〇)年~昭和六(一九三一)年) ⅩⅢ
月いでて今宵の魚市(イチ)の賑へる(海岸風景)
颱風にかまはぬ蟬のしらべ哉
颱風や畑畑の石圍ひ
春曉の機屋は覺めてゐたりけり
織娘等も海へ海へと夕涼み
房たるるバナナに支柱くれにけり
牡丹の塵こぼしたる机哉
南風や葵の花を傾けて
蚊遣香焚きつつ客を待ちにけり
涼風や悦び走る蚊火煙
機窓に咲きのぼりけり立葵
ゆらゆらと風鈴咲きや佛桑花
[やぶちゃん注:「佛桑花」既注。「ぶつさうげ(ぶっそうげ)」。ビワモドキ亜綱アオイ目アオイ科フヨウ属ブッソウゲ
Chinese hibiscus 、即ち、ハイビスカスのこと。]
揚雲雀アダンの中へ逆落し
[やぶちゃん注:「アダン」阿旦。単子葉植物綱タコノキ目タコノキ科タコノキ属アダン Pandanus odoratissimus 。高さ約六メートルで幹の途中から太い支柱根を出す。熱帯性で沖縄・台湾に自生し、潮風に強い。葉でパナマ帽や籠を、茎で弦楽器の胴を、根で煙管を作る。以下、ウィキの「アダン」によれば、果実は直径一五~二〇センチメートル『ほどでパイナップルに似た外見であり、パイナップルと同様に集合果である。個々の果実は倒卵形で』、長さ四~六センチメートル、幅三~5センチメートル、『内果皮は繊維質、外果皮は肉質』で、『若いうちは緑だが熟すと黄色くなり、甘い芳香を発する』。『葉や幹は利用価値が高く、葉は煮て乾燥させた後、パナマ帽等の細工物としたり、細く裂いて糸とし、筵やカゴを編む素材として利用される。観葉植物や街路樹としても利用される』。『沖縄では古くからその葉で筵やござ、座布団、草履を作るなどの利用があった。凧の糸にもアダンの繊維を撚った糸がもつれにくく適しているという。明治時代以降、加工技術の進歩に伴い、巻き煙草入れや手提げ鞄などが作られるようになったが、その後新たな素材の出現で衰えた。葉を漂白して作られたアダン葉帽子は一時期にブームを起こし、国外にまで輸出されるほどの好評を得た。モーリシャスでは製紙原料とされるとも言う。また、気根を裂いて縄とし、またその縄を編んでアンツクという手提げ鞄とする事も八重山では伝統的に行われ、これに昼食用の芋や豆腐などを入れて畑に出たという』。『防潮林・防風林・砂防林としても利用され、また観賞用に庭園などに栽培されることもある』。『パイナップルのような外観と甘い芳香のため、果実はいかにも美味に見えるが、ほとんどが繊維質で人間が食べるのには適さない。果実の表面に存在する突起の一箇所ごとが種子になっていて、その中心の松の実のような柔らかい白い箇所が可食部である。果実は硬い繊維質に包まれており、可食部を取り出す手間に見合う味と量ではないため、現在の沖縄県で食べる習慣は廃れてしまったが、過去にはアダンの果実でアンダンスーを作った。また、沖縄では昔食用とされたことからお盆には仏前にアダンの果実を供える習慣があったが、現在はパイナップルが使われ』ている。『また、石垣島ではアダンの柔らかい新芽を法事やお盆などの際の精進料理に用いる習慣があ』り、『他の野菜と共に精進煮とし、くせのない若筍のような味だというが、灰汁を抜かないと食べられず、手間がかかるため現在ではあまり食用にされない』とある。]
蟻達がほしいままなる座敷哉