飯田蛇笏 靈芝 昭和十年(九十九句) Ⅰ
昭和十年(九十九句)
柑園に雪ふる温泉の年始
[やぶちゃん注:「温泉」は「おゆ」か「ゆう」と読んでいるか。]
ふるさとの年新たなる墓所の雪
餠花に宿坊の爐のけむり絶ゆ
抱へたる大緋手鞠に醉ふごとし
饗宴にくちべに濃くてさむき春
窻掛に暮山のあかね春寒し
春寒や栂の枝苔おのづから
小野の蔦雲に上りて春めきぬ
岨※る禽に雪水ながれけり
[やぶちゃん注:「※」(上)「求」+(下)「食」。「※る」は「あさる」と読む。山の崖に採餌する鳥に雪解けの水が滴る景である。]
御嶽昇仙峽
洞門に晝月もある遲日行
[やぶちゃん注:「遲日行」は「ちじつかう」と読んでいるか。「遲日」は日あしが延びて暮れるのが遅くなるところから、春日をいう語。]