日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十二章 北方の島 蝦夷 4 モース先生はやっぱりアメリカ人――ビールとビーフ・ステーキがお好き――
だが、まだ私の住居の問題が残っていた。私は日本食で押し通すことは出来ないし、この町には西洋風のホテルも下宿もない。役人が二人、町を精査するために差し出された。午後三時、彼等は西洋館に住んでいるデンマーク領事の所で、我々のために二部屋を手に入れたと報告した。そこですぐ出かけて行くと、この領事というのは、まことに愛橋のある独身の老紳士で、英語を完全に話し、私が彼と一緒に住むことになってよろこばしいといった。一方長官の官吏は、下僕二人と共に、椅子二脚、用箪笥、卓子(テーブル)、寝台、上敷、枕、蚊帳その他ブラッセル産の敷物に至る迄、ありとあらゆる物を見つけて来た。かくて私は、私自身何等の経費も面倒もかけることなくして、最も気持よく世話されている。毎日正餐には、いい麦酒(ビール)一本とビーフステーキ――これ以上、人間は何を望むか?
[やぶちゃん注:「ブラッセル」原文“Brussels”。原文でお分かりの通り、ベルギーの首都ブリュッセル。中世、フランドルは優れた織物を産したが、ブリュッセルはその中心であった。]
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