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2014/05/26

杉田久女句集 225 江津湖の日 十一句

  江津湖の日 十一句

 

[やぶちゃん注:角川書店昭和四四(一九六九)年刊「杉田久女句集」には大正一一(一九二二)年の句群として入っているが、実際にはその前年大正十年九月に熊本の江津湖畔に住んでいた『ホトトギス』で親しくなった斎藤汀女(後の中村汀女。当時二十一歳。久女より十歳若い)を訪ねた際の嘱目吟である(言っておくと同句集の大正十年パートには一句しか載っておらず、明らかに編集上の奇異な感じを与える。ここにはもしかすると、宇内との結婚生活を続けることとなった同年には実母さよから『夫が俳句を嫌うのなら俳句をやめるように説得された』(底本年譜)といった事情も影響しているのかも知れない。即ち、俳句をやめた『振りをしていた』可能性である)。

「江津湖」は「えづこ(えずこ)」と読む。現在の熊本県熊本市東区及び中央区にかかって存在する湖。上(かみ)江津湖と下(しも)江津湖に分かれた瓢簞型を成し、間を加勢川が繋いでおり、上江津湖の東側半分が中央区に属している。「水前寺江津湖公園」公式サイトの
解説を参照されたい。本句群でも水棲植物が多く詠まれているが、特に九州の一部だけに自生する食用の淡水産稀少藍藻類である真正細菌藍色細菌門藍色細菌綱クロオコッカス目クロオコッカス科スイゼンジノリ Aphanothece sacrum の発生地として知られる。スイゼンジノリ(水前寺海苔)は茶褐色で不定形、単細胞の個体が寒天質の基質の中で群体を形成、郡体は成長すると川底から離れて水中を漂う。但し、現在も上江津湖に国天然記念物「スイゼンジノリ発生地」はあるものの、一九九七年以降に於いて水質の悪化と水量の減少によりここのスイゼンジノリはほぼ絶滅したと分析されている(現在、自生地としては福岡県朝倉市の黄金川一箇所のみ)。本種は熊本市の水前寺成趣園の池で発見され、明治五(一八七二)年にオランダの植物学者スリンガー(Willem Frederik Reinier Suringar)によって世界に紹介された。因みにこの種小名“sacrum”は英語の“sacrifice”で「聖なる」を意味する。これは彼がこの藍藻の棲息環境のあまりの清浄なさまに驚嘆して命名したものという。ただ近年では人口養殖に成功し、食用に生産されている他、スイゼンジノリの細胞外マトリックス(Extracellular Matrix:生物細胞の外側を外皮のように覆うように存在している超分子構造体。)に含まれる高分子化合物の硫酸多糖であるサクラン(Sacran:種小名に由来)が重量比で約六一〇〇倍もの水分を吸収する性質を持つことから保湿力を高めた化粧水に応用されたり、サクランが陽イオンとの結合によってゲル化するという性質を利用、スイゼンジノリを原料に生産したサクランを工場排水などに投入してレアメタルを回収する研究などが行われているという(以上は主にウィキスイゼンジノリ及びそのリンク先に拠った)。ここで藻を刈っているのは晩夏初秋の湖に繁茂してしまった水草を刈っているようにも見えるが、その「刈藻の香」というところなど、多量に刈り揚げて干された生臭い雑草としての水草類のそれとは思われず、この食用にされるスイゼンジノリや後の句に掲げられる染料ややはり食用に供されるミズアオイ(後注参照)のイメージを想起してよいものと私には思われる。この句群、さながら、水棲水辺植物博物句集の体(てい)を成してすこぶる附きで私には面白い。さればこそ久女も、ここで句には詠まれていないかも知れぬスイゼンジノリのことを私が長々と注したことを、きっと許してくれる、と私は思うのである。]

 

遊船の提灯赤く搖れあへる

 

藻の花に自ら渡す水馴棹

 

[やぶちゃん注:「水馴棹」は「みなれざを(みなれざお)」と読み、水底に挿して船を進める竿のこと。古語。]

 

水莊の蚊帳にとまりし螢かな

 

藻を刈ると舳に立ちて映りをり

 

藻刈竿水揚ぐる時たわみつゝ

 

[やぶちゃん注:「藻刈竿」藻を刈るために用いる専用の道具。藻刈器。現在ネット上で販売されているものを画像で視認すると、鎌の柄が非常に長い形状を成すものが多い。ここでもその柄が驚くほど長いものを想起出来る。]

 

湖畔歩むや秋雨にほのと刈藻の香

 

舟人や秋水叩く刈藻竿

 

水葱(なぎ)の花折る間舟寄せ太藺中

 

[やぶちゃん注:「水葱」単子葉綱ツユクサ目ミズアオイ科ミズアオイ Monochoria korsakowii の別名。ウィキミズアオイ」によれば、「万葉集」では「水葱」として求愛の歌に詠まれるなどして古くから湖や川辺に住まう人々に親しまれてきたもので、青紫色の花は染物に利用された他、食用に供されることもあり、食用にする場合は若芽や若葉を塩茹でにして流水によく晒し、汁物・煮物・和え物に用いるとある。「太藺中」は「ふとゐ/なか(ふとい/なか)」と読んでいよう。「藺」は畳表に使われる湿地や水中に植生する単子葉植物綱イグサ目イグサ科イグサ Juncus effusus var. decipens のこと。別名トウシンソウ(燈芯草)。夏の季語。]

 

漕ぎよせて水葱の花折る手のべけり

 

藻に弄ぶ指蒼ざめぬ秋の水

 

羊蹄(ぎしぎし)に石摺り上る湖舟かな

 

[やぶちゃん注:「羊蹄」やや湿った道端や水辺・湿地などに植生する双子葉植物綱ナデシコ目タデ科スイバ属ギシギシ Rumex japonicas のこと。若芽や若葉は山菜食用に、根は皮膚薬になる。]

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