杉田久女句集 219 病後小景
山茶花や病みつゝ思ふ金のこと
泣きしあとの心すがすがし菊畠
母留守の菊にそと下りし病後かな
個性(さが)まげて生くる道わかずホ句の秋
妬心ほのと知れどなつかし白芙蓉
螺線(ねじ)まいて崖落つ時の一葉疾し
雞頭大きく倒れ浸りぬ潦
[やぶちゃん注:老婆心乍ら。前に注したように「雞頭」は「けいと」と読んでいよう。「潦」は「にはたづみ(にわたずみ)」と読み、雨が降って地上に溜まっては流れる水をいう。]
櫛卷にかもじ乾ける菊の垣
[やぶちゃん注:老婆心乍ら。「櫛卷」は「くしまき」で女性の髪の結い方の一つ。紐で結んだりせず、束髪を櫛に巻きつけて頭頂部に留めるだけの簡単な髪型。「かもじ」は「髢」「髪文字」。頭の「か」は「かみ(髪)」「かずら(髢)」などの頭音で、「もじ」は文字言葉(ある馴染みの単語の後半部を省いてその語の頭音又は前半部分を表わす仮名の下に付いて品よく言い表したり、婉曲に言い表わしたりする一種の女房詞)。狭義には、婦人が髪を結う際に豊かにするために添える毛、添え髪・入れ髪をいうが、広義には「おかもじ」で髪全般を指す女房詞でもある。ここでの久女は病み上がりであるから、髪全体という意の後者であろう。]
夫へ戻す子等の衣縫ふ冬夜かな