飯田蛇笏 靈芝 昭和十年(九十九句) Ⅴ
初夏の嶺小雨に鳶の巣ごもりぬ
初夏の卓朝燒けのして桐咲けり
わが浴むたくましき身に夏の空
海黝ろむ艙庫は暑き日を抱けり
大槐樹盆會の月のうす幽し
虹消えて夕燒けしたる蔬菜籠
虹たつや常山木に顫ふ烏蝶
[やぶちゃん注:双子葉植物綱シソ目シソ科クサギ(臭木)Clerodendrum trichotomum 。ウィキの「クサギ」によれば、日当たりのよい原野などによく見られる落葉小高木で、和名は葉に悪臭があることに由来する。『葉は大きく、長い葉柄を含めて』三〇センチメートル『にもなり、柔らかくて薄く、柔らかな毛を密生する。葉を触ると、一種異様な臭いがするのがこの名の由来である。花は』八月頃に『咲く。花びらは萼から長く突き出してその先で開く。雄しべ、雌しべはその中からさらに突き出す。花弁は白、がくははじめ緑色でしだいに赤くなり、甘い香りがある。昼間はアゲハチョウ科の大型のチョウが、日が暮れるとスズメガ科の大形のガがよく訪花し、受粉に与る。果実は紺色の液果で秋に熟し、赤いがくが開いて残るためよく目立つ。この果実は鳥に摂食されて種子分散が起きると考えられている』とあり、また『葉には名の通り特異なにおいがあるが、茶の他に、ゆでれば食べることができ若葉は山菜として利用される。収穫時には、臭いが鼻につくが、しばらくすると不思議なくらいに臭いを感じなくなる。果実は草木染に使うと媒染剤なしで絹糸を鮮やかな空色に染めることができ、赤いがくからは鉄媒染で渋い灰色の染め上がりを得ることができる』とある。「烏蝶」は「からすてふ(からすちょう)」で、鱗翅(チョウ)目アゲハチョウ上科アゲハチョウ科アゲハチョウ亜科アゲハチョウ属
Papilio に属するアゲハチョウ類で、特に選ぶならばカラスアゲハ Papilio bianor を指すと考えてよいか。]
深山寺雲井の月に雷過ぎぬ
[やぶちゃん注:「深山寺」は「みやまでら」であろうが、こう呼称する地名や寺院は複数ある。福井県敦賀市深山寺か。但し、出雲にも同様の地名がある。識者の御教授を乞う。私は暫く一般名詞として採って鑑賞しておく。それで何らの問題はない。]
瀧霧の颺りて樅のこずゑまで
[やぶちゃん注:「颺りて」は「あがりて」と読む。]
ながれ出て舳のふりかはる鵜舟かな
[やぶちゃん注:「舳」は「へ」。舳先。]
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