飯田蛇笏 靈芝 昭和九年(百七句) ⅩⅢ
錦木も苅られし籠の山すすき
[やぶちゃん注:「錦木」ニシキギ目ニシキギ科ニシキギ
Euonymus alatus。日本・中国に自生し、紅葉が美しいため、モミジ・スズランノキとともに世界三大紅葉樹に数えられる。若い枝では表皮を突き破ってコルク質の二~四枚の翼(よく)が伸長するので識別しやすい(翼が出ないもの品種はコマユミ
Euonymus alatus f. ciliatodentatus もある)。葉は対生で細かい鋸歯があって枝葉は密に茂る。初夏に緑色で小さな四弁の花が多数つくが、あまり目立たない。果実は楕円形で、熟すと果皮が割れ、中から赤い仮種皮に覆われた小さい種子が露出する。庭木や生垣・盆栽にされることが多い。和名の由来は紅葉を錦に例えたもの。別名ヤハズニシキギとも呼ぶ(以上はウィキの「ニシキギ」に拠った。グーグル画像検索「Euonymus
alatus」)。]
實の熟れて石榴たまたまちる葉かな
[やぶちゃん注:「たまたま」の後半は底本では踊り字「〱」。]
新月の仄めく艇庫冬眠す
乳を滴りて母牛のあゆむ冬日かな
橡の實は朴におくれて初しぐれ
軍港の兵の愁ひに深雪晴れ
[やぶちゃん注:「深雪晴れ」は「みゆきばれ」と読み、深く雪が降り積もった翌日のからりと晴れた景をいう。但し、「深雪」は元来が「美雪」で「み」は美称であるから深雪の景である必要はない。]
雪踏んで靴くろぐろと獄吏かな
[やぶちゃん注:「くろぐろ」の後半は底本では踊り字「〲」。]
山神樂冬霞みしてきこえけり
山雪の闇ふかみたる追儺かな
中谷草人星遂に逝く
涙顏鳴呼冷えつらん蒲團かな
[やぶちゃん注:「中谷草人星」蛇笏門の諫早農学校教師であった中谷(なかたに)草人星。本名中谷欣三。]
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