杉田久女句集 228 大正十四年 松山にて 五句
大正十四年 松山にて 五句
上陸やわが夏足袋のうすよごれ
夏羽織とり出すうれし旅鞄
替りする墨まだうすし靑嵐
卓の百合あまり香つよし疲れたり
姫著莪の花に墨する朝かな
[やぶちゃん注:「姫著莪」は「ひめしやが(ひめしゃが)」で、単子葉植物綱キジカクシ目アヤメ科アヤメ属シャガ
Iris japonica の近縁種ヒメジャガ(姫射干・姫著莪)Iris gracilipes 。常緑のシャガとは異なり冬には枯れる。花期は五~六月で直径四センチメートルほどの淡紫色の花を花茎に二、三個咲かせる。外花被片の中央は白色で、紫色の脈と黄色の斑紋があり、鶏冠状の突起がある(以上はウィキの「ヒメシャガ」に拠る。グーグル画像検索「ヒメジャガ」)。
大正一四(一九二五)年五月二十四日の高浜虚子歓迎松山俳句大会出席時の吟詠。
なお、この一句群の前に打たれたアスタリスクは前の箇所と同じくやはり特異で、しかもその意図が読者には判然としない。やはりこれは久女の中の隠された意識の一つの区切りのようにも思われる。]