飯田蛇笏 靈芝 昭和九年(百七句) Ⅻ
あゆみ出て秋鵜つぶやく日南かな
[やぶちゃん注:「秋鵜」は「しうう(しゅうう)」か「あきう」か。あ段音のリズムからなら後者であるが、全体のスマートさからは前者か。]
みだれたる秋鵜の羽のしづくかな
[やぶちゃん注:この句を見ると「あきう」らしい。]
收穫(とりいれ)の薄明りさす添水かな
[やぶちゃん注:「添水」は「そうづ(そうず)」。ししおどし。既注。]
赤痢搬ぶ路まだ暑氣のさめずあり
疫痢の子口あんぐりと醫を迎ふ
年寄りて帶どめの朱や秋袷
ばさばさと秋耕の手の乾きけり
[やぶちゃん注:「ばさばさ」の後半は底本では踊り字「〱」。]
講宿のねつとり甘き新麹
[やぶちゃん注:「講宿」単なる直感でしかないが、これは日蓮宗総本山身延山久遠寺へお参りする講中のための、旅宿のことではあるまいか? 識者の御教授を乞うものである。]
貧農の足よろよろと新酒かな
十字架祭洪水の空夜となりぬ
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