飯田蛇笏 靈芝 昭和十年(九十九句) Ⅱ
野球見の大日輪に魂醉へり
潮干舟新月は帆にほのめきぬ
[やぶちゃん注:「潮干船」は「しほひぶね(しおひぶね)」で潮干狩りをする人を乗せる船。春の季語。]
筑波登山、二句
裏筑波燒け木の鳶にうす霞む
[やぶちゃん注:「燒け木」落雷に燃え焦げた高木か。]
東風吹くや岩戸の神の二タはしら
[やぶちゃん注:筑波山は男体山と女体山から成る双耳峰で、筑波山神社は筑波山南面の海抜二七〇メートルにある拝殿地以上を社地とし、男体山(標高八七一メートル)の神を筑波男ノ神(つくばおのかみ・筑波男大神)=伊弉諾尊(いざなぎのみこと)、女体山(標高八七七メートル。こちらの方が高いので注意)かの神を筑波女ノ神(つくばめのかみ・筑波女大神)=伊弉冊尊(いざなみのみこと)とする。但し、厳密には神道では男女夫婦神は二人で一柱と数える。]
淡路別春莊にて
能舞臺幕料峭と夜風たつ
[やぶちゃん注:「淡路別春莊」現在の淡路島(兵庫県洲本市由良町由良)に厚生寮淡路別春荘という名の建物があるが、同一物かどうかは不明。この能舞台はその旅宿(?)に附設されたものであろう。中七は「まく/れうせうと(りょうしょうと)」と読む。「料峭」とは春風が未だ肌に薄ら寒く感じられるさまをいう。「料」は「撫でる」「触れる」の意、「峭」は山が尖るさまから転じて厳しいことを意味し、「春寒(はるさむ)」とほぼ同義ながら、それよりもより肌を刺すような寒い初春の風をいう。春の季語。以上は清水哲男氏の「増殖する俳句歳時記」のここのページの記載を参考にさせて頂いた。]
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