篠原鳳作初期作品(昭和五(一九三〇)年~昭和六(一九三一)年) Ⅻ
門川の溢れてゐたる歸省哉
一疋は背中に負ひぬ仔豚賣
船人と別れをおしむ日傘かな
[やぶちゃん注:「おしむ」はママ。]
ハブ捕のかもじを卷きし手先かな
[やぶちゃん注:「かもじ」は「髢」「髪文字」と書きく。「か」は「かみ(髪)」「かずら(髢)」などの頭音であり、「文字(もじ)」は女房詞に於ける「文字言葉」と呼ばれるもの(語の後半を省き、その語の頭音又は前半部分を表す仮名の下に付いて、品よく言い表したり、婉曲に言い表したりする語で、ある語の頭音の一音乃至二音に「もじ」という語を付けたもの。「そもじ(=そなた)」「はもじ(=恥ずかし)」「ゆもじ(=湯巻)」など。)である。元来は婦人が日本髪を結う際に添える毛、添え髪・入れ髪を指すが、ここは単に髪をいう女房詞の用法(「おかもじ」)であるが、してみると、次の句で「少年」とは出るが、このハブ捕りを沖繩の若(わか)さん女(いなぐ)ととるのも面白い。]
いとけなき少年にして毒蛇捕り
[やぶちゃん注:前句で女房詞の「かもじ」を用いたのは、しかし、それが少女に見紛う紅顔の美少年であったからと読むのもはたまた面白い。]
南風や龍舌蘭の花高し
靜かなる芭蕉の玉や靑嵐
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