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2014/05/07

柴田天馬訳 蒲松齢 聊斎志異 妾撃賊


 妾撃賊しょうげきぞく

益都えきと西鄙せいひに某という貴家いえがらの金持ちがあった。一人のめかけをおいていたが、すこぶる美人で、本妻からいじめられむちうたれながら、謹んで仕えている、その心根をあわれに思った某は、ときどきそっと慰めいたわってやった。妾が少しもうらみがましいことを言わないのが、いっそういじらしかったのである。
 ある夜、数十人の集団強盗がへいを乗りこえてはいっで来た。入り口のとびらを激しく突くので、こわれそうになったが、某と本妻とはあわてまよい、ただふるえるばかりで、どうすることもできなかった。
 戸はまさに、こわれようとしている。
 妾は黙って、そっと起きた。閣の中で、しきりに、そこらをさぐつていたが、やがて一本の挑水木杖てんびんぼうをさぐり当てると、いきなりかんぬきを抜いて飛び出した。盗賊の一群が蓬蓆あさのように入り乱れているただなかに立った妾の、白い細い手が動くと、ぼうは風を鳴らして、四、五人の盗賊を一なぎに打ち倒した。目にもとまらぬ早わざである。賊団は、きもをつぶして、みんな浮きあしになり、逃げ出そうと騒ぐのであるが、高い牆がそびえているので、駆けあがることができず、つまずき倒れて、わあわあ言いながら、気ぬけのようになっていた。
 妾は杖を地に突き、にっこり笑って、
 「こいつらはいまかたづけてしまわないと、また賊になるだろうが、あたしは、おまえたちを殺しはしないよ。虫けらを殺したんじゃ、あたしの顔にかかわるからね」
 そして逃がしてやったのである。
 某は、びっくりした。どうして、そんなに強いのだ、と聞くと、妾は恥ずかしそうに、つつましく答えたのである、  「わたくしの父は、もと槍棒の師範を致しておりましたので、すっかり秘術を伝えられたのでございます。百人やそこらの相手なら、なんでもございません」
 妾の話を聞いて、いちばんひどく驚いたのは本妻だった。今まで見さかいもなく打ったり叩いたりしたのを思うと、冷や汗が流れるのだ。で、それからは妾をかあいがり、まったく今までの態度を一変するようになった。が、妾は、やはり忠実に仕えて、少しも本妻に対する礼儀を失うようなことはなかった。ある時隣のかみさんが、妾に向かい、
 「ねえさんたら、あれだけのどろぼうを、まるで豚か犬ころみたいになぐりつける腕まえがありながら、なぜ、おかみさんに、おとなしく打たれていたのさ」
 と言うと妾は答えた、
 「それが妾の身分ですもの。何も言うことはありませんわ」
 聞き伝えた人たちは、ますます妾の賢さをほめたのであった。

■原文

 妾擊賊

益都西鄙之貴家某者、富有巨金。蓄一妾、頗婉麗。而冢室凌折之、鞭撻橫施。妾奉事之惟謹。某憐之、往往私語慰撫。妾殊未嘗有怨言。
一夜、數十人踰垣入、撞其屋扉幾壞。某與妻惶遽喪魄、搖戰不知所爲。
妾起、嘿無聲息、暗摸屋中、得挑水木杖一、拔關遽出。群賊亂如蓬麻。妾舞杖動、風鳴鉤響、擊四五人仆地。賊盡靡、駭愕亂奔。牆急不得上、傾跌咿啞、亡魂失命。
妾拄杖於地、顧笑曰、
「此等物事、不直下手插打得。亦學作賊。我不汝殺、殺嫌辱我。」
悉縱之逸去。
某大驚、問、
「何自能爾。」
則妾、
「父故槍棒師、妾盡傳其術、殆不啻百人敵也。」
妻尤駭甚、悔向之迷於物色。由是善顏視妾。妾終無纖毫失禮。鄰婦或謂妾、
「嫂擊賊若豚犬、顧奈何俛首受撻楚。」
妾曰、
「是吾分耳、他何敢言。」
聞者益賢之。
異史氏曰、「身懷絶技、居數年而人莫之知、而卒之捍患御災、化鷹爲鳩。嗚呼、射雉既獲、內人展笑。握槊方勝、貴主同車。技之不可以已也如是夫。」

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