篠原鳳作初期作品(昭和五(一九三〇)年~昭和六(一九三一)年) ⅩⅨ
町中となりし田圃の案山子かな
一刀をた挾む兵兒の案山子かな
[やぶちゃん注:「兵兒」は「へこ」と読み、鹿児島地方で、十五歳以上二十五歳以下の青年を指す語である。「へこ」には褌(ふんどし)の意があるが、「日本国語大辞典」には、これは同地方で十五歳になった者に対して正月二日に近親血縁者が祝いに行き、手拭いと褌を贈る儀礼「へこかきいわい」が済んだ男子の意を語源とするか、とある。また、男子や子供用のしごき帯を兵児帯と呼ぶが、これ自体が元は薩摩のまさに前に出した兵児(へこ)が用いた帯びであったことに由来するという、ともある。私の母は鹿児島の出身であったが、これらは私の全く知らない事柄で、まっこと、目から鱗であった。]
雨の蘆てらして戻る夜振哉
[やぶちゃん注:「夜振」老婆心乍ら、「よぶり」と読み、夏の夜にカンテラや松明などを灯して時に振り動かし、それに向かって寄ってくる魚を獲る漁法の名。火振り。]
鰯雲月の面にかかりそむ
サボテンの影地に濃ゆき良夜哉
石切のほつたて小屋や葛の花
潮騷のとほくきこゆる門火かな
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