情火立つの夜 山之口貘
情火立つの夜
白き日は沈み――
夏野日の眞夜中……
何となくうら寂しい
盲目蛇の孤獨な鳴き聲は
庭の何處を漏れて來る、
孤燈の下に、
淡き光を浴びては
また合うふ日のロミを夢め見る
――優しき膚、熱き血潮、
安息は更にまたきみを描く
我知らず淡きエローの
光に溢るる笑、
嗚呼何となくもの寂しい
連想深き夜中の大氣
なほも なほも……
盲目蛇鳴く眞夜中
我はロミの姿に憧れて行く。
[やぶちゃん注:底本では末尾に下インデントで『一九二一・六・二四』とある。前の二作と同日の創作であるが、こちらは大正一〇(一九二一)年十月一日附『八重山新報』に次の「i畫伯」とともに二篇が並載されたものと思われる。但し、この詩にのみ「佐武路」のペン・ネームを附す(巻頭であったからか。但し、この詩が巻頭であったかどうかは底本では確認不能)。「ロミ」不詳。「エロー」はイエローか、はたまた“Eros”か。題名も「ほむらたつのよ」と読みたくなるサンボリスム的な謎めいた詩であるが、妙に気になる詩ではある。]
« 北條九代記 卷第六 京方武將沒落 付 鏡月房歌 竝 雲客死刑 (1)承久の乱【二十七】――官軍敗北、大臆病の後鳥羽院、帰り着いた武将らに門を開けず | トップページ | 杉田久女句集 227 大正十四年姉死去 二句 »