Y生へ 山之口貘
Y生へ
惡であつても
自己が
他のものに邪魔されたと
思ふとき
自分を善と見る
そして反抗心は、ムラムラと
燃えのぼり
顏には靑筋を立てる
それこそ
自己に無理解な人間だ
自己に對する〔社会に對しても〕
いさゝかの愛もない人間だ
反抗の心を
矢鱈に左右するものは
所謂杓子定規で、
氣の毒な人間だ
自己の惡を知らない反抗心は
卑劣な人間の
眞理と云へやう……
きみは
卑劣な人間の創造者
に過ぎない。
[やぶちゃん注:底本では末尾に下インデントで『一九二二・一・一八』とある。大正一一(一九二二)年二月十一日附『八重山新報』に次ぎの「虐げられるもの」とともに掲載された。ペン・ネームは「佐武路」。
「Y生」邪推すれば第三者に読めないこともない――しかし――「Y生」とは実は山之口貘自身への弾劾とも読めるような気が私にはしている。バクさんなら、あり得る、そんな気が今はしている――]
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