飯田蛇笏 靈芝 昭和十一年(百七十八句) Ⅲ
鵯猛けく稚木の椿さく峯かな
[やぶちゃん注:読み不詳。「ひよたけく/ちぎのちんさく/たかねかな」ととりあえず読んでいる。]
椿咲く針葉樹林拓かれぬ
さゞき鳴く破風老梅の咲き滿てる
[やぶちゃん注:「さゞき」はスズメ目ミソサザイ科ミソサザイ
Troglodytes troglodytes のこと。ウィキの「ミソサザイ」に、『日本では古くから知られている鳥で、古事記・日本書紀にも登場する』。『古くは「ササキ」であったが時代が下り「サザキ」または「ササギ」「ミソササギ」等と言った。冬の季語とされている』『江戸時代の俳人小林一茶が「みそさざい ちっというても 日の暮るる」の句を詠んでいる』とある。]
春還山莊
溪聲に山羊鳴き榛の花垂りぬ
[やぶちゃん注:前書は一般表現と採った。固有名詞で御存じの方は御教授願いたい。「榛」既注であるが、実はハシバミもハンノキも孰れも似たような垂下する花で同定の根拠には意外なことにならない。こうなってはお手上げ。識者の御教授を乞うものである。]
夏近き禁裡の雲に啼く鴉
種痘する肌の魔幽くかゞやけり
[やぶちゃん注:私の偏愛する句。]
温泉山みち凝る雪みえて躑躅咲く
葉もなくて擽の老樹花滿てり
花冷えや孔雀の紫金夜をめげず
大月、巖殿山
行く春の亭に子女よる嶽一つ
[やぶちゃん注:「巖殿山」は現在の山梨県大月市賑岡町(にぎおかまち)にある標高六三四メートルの岩殿山(いわどのやま)のことであろう。ここには甲斐国都留郡の国衆小山田氏の居城とされる岩殿山城という山城があった。戦国時代には東国の城郭の中でも屈指の堅固さを持っていたことで知られた城で現在、山梨県指定史跡(以上はウィキの「岩殿山城」に拠った)。]
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