杉田久女句集 241 花衣 Ⅸ
落椿の葉くぐり落ちし日の斑かな
蒼海の波騷ぐ日や丘椿
梅莟む官舍もありて訪れぬ
花見にも行かずもの憂き結び髮
盛會を祈りて花にゆく遠く
花影あびて群衆遲々とうごくかな
花ふかき館に徑ある夜宴かな
花莟む梢の煙雨ひもすがら
襟卷に花風寒き夕べかな
たもとほる櫻月夜や人おそき
神風にこぼれぬ花を見上げけり
故里の藁屋の花をたづねけり
[やぶちゃん注:久女は明治二三(一八九〇)年五月三十日に父赤堀廉蔵、母さよの三女として官吏であった父の任地であった鹿児島県鹿児島市平(ひら)の馬場(現在の鹿児島市の中央部である鹿児島県鹿児島市平野町)で生まれたが、その後、父の転勤で久女四歳の時に岐阜県大垣へ、翌年辺りには沖繩県那覇市へ、明治三一(一八九七)年には台湾の台北へと移り住んでいる。ここにいう「故里」とはしかしなかなかに難しいものがある。久女にとってはこれら以外にも父の信州の実家もその中に含まれていたと思われるからであるが、ここでわざわざ「たづねけり」と詠じた辺りからは(再訪し得る圏内としても)鹿児島の生家を指すもののように私は読む。]
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