橋本多佳子句集「紅絲」 蘇枋の紅 Ⅳ 雀の巣かの紅絲をまじへをらむ――橋本多佳子のスキャンダラスな句――
遠く鼓ヶ浦を想ふ 一句
雀の巣かの紅絲をまじへをらむ
[やぶちゃん注:「鼓ヶ浦」既注。現在の三重県鈴鹿市寺家町鼓ヶ浦には師山口誓子が住んでいた。本句集「紅絲」の標題句である。誓子は同句集序を、
「紅絲」は、多佳子俳句を貫く一筋の何かもの悲しいものである。
と擱筆している(太字は底本では傍点「ヽ」)。本句、句集標題を引き出し得るような佳句とも思われぬ。思われぬがしかし、とんでもない問題作ではある。これを句集の標題句とするに躊躇しない確信犯としての多佳子、序のコーダをかくもぬけぬけと綴る確信犯としての誓子……この男の師と女弟子の相聞をスキャンダラスと言わずして何と言おう……それはそれでしかし、当時の二人それぞれが身に引き受けなくてはならなかった試練でもあったには違いあるまい……]
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