萩原朔太郎「ソライロノハナ」より「何處へ行く」(22) 酒場の一隅より(Ⅱ)
新しき我等が軍の尖兵の
中にまぢれる皷手の少年
[やぶちゃん注:「まぢれる」はママ。「皷手」は「こしゆ(こしゅ)」で軍隊の戦列兵の鼓手。「皷」は「鼓」の異体字。筑摩版全集校訂本文は「鼓」に訂する。]
たゞ人は物言ふおきもうつむける
少年とのみ我を見るらむ
わがまへに人いくたりかつまづきし
かの途を行きこの途をゆく
僅かなる在府の錢を思ひつゝ
酒場を出でゝ風に吹かるゝ
その心ダイナマイトに似たれども
弱々しげに見ゆる少年
事ごとに心跳りてときめきし
十七の春とらふ由なし
その頃の十七才の少年と
われを思へる祖父(おぢ)のいましめ
[やぶちゃん注:筑摩版全集校訂本文は「才」を「歳」に訂する。]
何時となく覺えしものを罪てふか
かくれてあそび酒を飮むこと
待合(まちあひ)の勘定書と質札と
白銅とのみ殘れる財布
[やぶちゃん注:「白銅」白銅貨。当時流通していたのは菊を刻印した五銭白銅貨幣と後発の同じく稲を刻印した五銭白銅貨幣。]
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