莨 ―ニヒリストへの贈物― 山之口貘
莨 ―ニヒリストへの贈物―
諦らむるものの吐息はけぶるのである
深い深い地の底に吸はれてけぶるのである
うちつづくこの怪しげな平面に直角で
高い高い 昇天の涯で
ああ 疲れた生命のまうへ
死んだ月の輪にけぶるのである
うちふるふ希望の觸手の末梢はしびれ
得體の知れない運命にすつかり瘦せてしまうて
とほくとほく眞空をめざしてけぶるもの
それは火葬場を訪ねる賓客(まらうど)の莨です。
[やぶちゃん注:初出は大正一四(一九二五)年八月発行の『抒情詩』。ペン・ネームは「山之口貘」。前の「夜は妊娠である」と「晝はからつぽである」と本詩と以下に掲げる「日向のスケツチ」の四篇が掲載された。本詩の創作年代及び諸事情は「夜は妊娠である」の私の注を参照されたい。]