苦痛の樂天地 山之口貘
苦痛の樂天地
我が行かんとする樂天地!
我が身にしみじみ沁む
寒む風は海より
今我と、我が苦悶をさらひ
行くらし
そは彼方の樂天地へと
おゝ……
死は我に迫り來る
冷たく廣大な海の波とともに
はるかを吹き來る風とともに
我が嬉しき心!
死を嬉ぶ心さらひに。
[やぶちゃん注:二箇所の「!」斜体はママ。底本では最終行に下インデントで『一月五日』とある。大正一一(一九二二)年一月二十一日附『八重山新報』に「我がひとみ」と後の「石垣用吉氏に捧ぐ」とともに三篇掲載された。]
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