萩原朔太郎「ソライロノハナ」より「何處へ行く」(23) 酒場の一隅より(Ⅲ)
その朝の痛める心はらちもなく
また來よといふ人を憎みぬ
宵ごとの父の小言を時ありて
きかざることを悲しみとする
放蕩の報ひというふに餘りにも
あきらめられぬことがあるかな
[やぶちゃん注:「報ひ」はママ。]
いかでわれ罪を悔いんや悲しきは
矛盾といへる鬼のすること
[やぶちゃん注:「矛盾」は原本では「矛循」。誤字と断じて訂した。]
生じいに神のこゝろを量りたる
その天罰がわれを苦しむ
[やぶちゃん注:「生じい」はママ。]
新宿のレストラントのよごれたる
紺簾をくゞる夜のならはし
[やぶちゃん注:「紺簾」はママ。校訂本文は「暖簾」に訂する。恐らくはこの校訂は九分九厘正しいのであろうが、私には朔太郎の眼に「紺の暖簾」が現前としてあったのだと思われ、これを容易に誤字として訂することが出来ないのである。]
なんとなく若き女とつれだちて
淺草などへ行きたくなりぬ
一人にて梅見に行きしがそのことが
悲しくなりて逃げてかへりぬ
« 北條九代記 卷第六 本院新院御遷幸 竝 土御門院配流(5) 承久の乱最終戦後処理【四】――土御門院、土佐次いで阿波へ遷幸す | トップページ | 杉田久女句集 245 花衣 ⅩⅢ »