橋本多佳子句集「紅絲」 冬の旅 Ⅲ 鼓ケ浦に師誓子を訪う
鼓ケ浦
[やぶちゃん注:昭和二八(一九五三)年一月六日の条に現在の三重県鈴鹿市寺家町鼓ヶ浦に山口誓子宅を訪問するという記事がある。但し、本句集は昭和二十六年までなので、前の句の順列からは昭和二十五年の一月以降、昭和二十六年中の訪問ということになる(年譜にはその訪問記載はない)。]
冬駅に名を筆とづゝ伊賀に読み
師の前にたかぶりゐるや冬の濤
ゆらゆらと月のぼるとき師と立てる
濤高き夜の練炭の七つの焰
うち伏して冬濤を聴く擁るゝ如
[やぶちゃん注:橋本多佳子の句に対し、しばしば、師誓子を詠むものにはあたかも恋人に接するような趣きがあるという評言を目にするが、確かにまさにこの五句など(この後の二句もすべて師を訪問した折りのものとは断言出来ないものの)、ブラインド・テイスティングしたなら、明らかにかなりどきっとする恋句連作にしか、まず見えぬ。]
冬鷗百姓たゝせたゝせ来る
寒月下海浪干潟あらはしつゝ
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