飯田蛇笏 靈芝 昭和十一年(百七十八句) Ⅵ
しら雲のなごりて樺に通草垂る
[やぶちゃん注:「通草」老婆心乍ら、「あけび」と読む。木通の別名で生薬名(「ツウソウ」)でもある。]
新障子はりて挿したる柚の實かな
[やぶちゃん注:「挿したる」とあるから、不注意とは思われぬ。完全なるものは魔を呼ぶ故の邪気を払う(柚子の香はそうした効果を持つとされる)ための風習か。識者の御教授を乞う。]
秋雲を縫ふ岩燕見えそめぬ
[やぶちゃん注:「岩燕」スズメ目スズメ亜目ツバメ科ツバメ亜科デリコンDelichon 属イワツバメ Delichon urbica 。通常のツバメ科ツバメ属ツバメ Hirundo rustica との違いは、イワツバメは家屋に巣を造らず、コンクリート橋やコンクリート製のビルに巣を造ること、通常のツバメは喉と額が赤く面部は茶色であるが、イワツバメは嘴も面部上面も黒い。イワツバメの尾は所謂、燕尾形ではなく、扇形を呈する。営巣する巣も特徴的で、ツバメのような皿型ではなく、上部まで閉じる形のそれで開口部も小さい。グーグル画像検索「Hirundo
rustica」(ツバメ)及び「Delichon
urbica」(イワツバメ)で比較されたい。]
盂蘭盆や槐樹の月の幽きより
[やぶちゃん注:「槐樹」マメ目マメ科マメ亜科エンジュ
Styphnolobium japonicum 。ウィキの「エンジュ」によれば、中国原産で古くから台湾・日本・韓国などで植栽されている。和名は古名「えにす」の転化したもの。『街路樹や庭木として植えられる。葉は奇数羽状複葉で互生し、小葉は』四~五対あって長さ三~五センチメートルの卵形をなし、『表面は緑色、裏面は緑白色で短毛がありフェルトのようになっている。開花は』七月『で、枝先の円錐花序に白色の蝶形花を多数開き、蜂などの重要な蜜源植物となっている。豆果の莢は、種子と種子の間が著しくくびれる』とある。]
翠巒に杣家のあぐる施火の煙
[やぶちゃん注:「施火」は「せび」で盆の精霊送りに焚く送り火のこと。]
ゆきずりの燭を感ずる地蔵盆
山盧盂蘭盆、一句
中盆や後山の雲に人行かず
送行の葛の花ふむ草鞋かな
[やぶちゃん注:「送行」は「そうあん」と読み、夏安居(げあんご)が終わって修行僧が各地に別れていくことをいう。]
かたつむり南風茱萸につよかりき
水あかり蝸牛巖を落ちにけり
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