日向のスケツチ 山之口貘
日向のスケツチ
ひろびろとした天上の海はゆれうごき
大氣の潮流に仄白い帆舟がうかび
ふくらむ地皮の中からぽぷらあの木は伸び出て
すくすくとのびいで
淡い蔭の煽動するあたりに嬌者が跳ね囘り
べらべらと蝶のやうに跳ねまはり
この娘達の舌端はまひるの蓄音機ではないか
香り高い線香の白煙のやうな空氣が、
ぽかぽかと膨張する日向の風景で
私は新しい感情のチユーブを絞り
めろめろとしぼり
處女の氣分で胸のパレツトをうちひらき
さうしてかろやかな明るい淡彩の繪をかかげよう。
[やぶちゃん注::初出は大正一四(一九二五)年八月発行の『抒情詩』。ペン・ネームは「山之口貘」。前の「夜は妊娠である」と「晝はからつぽである」と「莨 ―ニヒリストへの贈物―」と本詩の四篇が掲載された。本詩の創作年代及び諸事情は「夜は妊娠である」の私の注を参照されたい。]
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