杉田久女句集 235 花衣 Ⅲ 身の上の相似て親し櫻貝
身の上の相似て親し櫻貝
[やぶちゃん注:この句には酷似した句として、角川書店昭和四四(一九六九)年刊「杉田久女句集」の昭和八(一九三三)年のパートに載る(実は私は同句集の編年には既に何箇所かで疑問を感じているのであるが、坂本宮尾氏の「杉田久女」によれば、草稿は昭和九年と記されているとある。そうでないと確かに「おかしい」のである)、
由比ケ濱
身の上の相似てうれし櫻貝
がある。ところが何と、この「杉田久女句集」の本句集のずっと後半には突如、
由比ケ濱
身の上の相似でうれし櫻貝
という驚くべき、酷似し乍ら、逆ベクトルの否定形句形でそのまま出現するのである。お分かりの向きもあろうが、これは前書「由比ケ濱」に解く鍵があり、それを坂本氏は久女の草稿を精査する中で美事に解明されている。これについては軽々に注する訳にはいかない。というより、この句は普通に彼女の句集を読んでさらりと読み流ししてしまう句であろう。それが再度、否定形で出ることの驚愕の部分で初めてこの句の持つ意味が自ずと問題になってくる。それはまた「身の上の相似でうれし櫻貝」の句が出現するまさその「場所」でじっくりと考えてみたいのである。]