歎き――宮古鳥の詩を讀んで 山之口貘
歎き――宮古鳥の詩を讀んで
いやな生命――
痛切の賜は
情無の恨――
懷しき他所の詩よ
惱みつゝ小さき詩人は枯れて行
「風薰る初夏に性は蘇らん」と
小さき身よ………おゝ
痛くも歎きの只中を孤獨に
風薰る初夏よ
風薰る初夏よ
性の消失――
性の墓地――
默せる柔順よ
永遠に初夏に埋れて
淸花香の芳しきにほひに
陰鬱な墓地のわきに幾度か煙る
おゝ若き詩情の生存は悲しく
日沒の如く
哀へつゝもこの生命
[やぶちゃん注:大正一〇(一九二一)年十月十一日附『八重山新報』に「佐武路」のペン・ネームで掲載された。底本新全集本文は最後の行の、
哀へつゝもこの生命
の「哀」を「衰」の誤植とみなして、
衰へつゝもこの生命
とする。「枯れて行」はママ。
「宮古鳥の詩」不詳。底本解題にも記さない。「宮古鳥」が人名(詩人のペン・ネーム)や一篇の具体的な詩の題名としての固有名詞なのか、それとも「宮古鳥」という鳥の呼称(具体的な鳥類の通称)なのか全く不明。かく漢字で書く「みやこどり」という鳥はいない。ネットにはこの文字列自体が出現しない。なお、初見の際には私は「宮古島の詩」と誤読して読んでいた。詩の内容からは詩人のペン・ネームの可能性が強いようには思われる。識者の御教授を乞うものである。
「淸花香」ネット検索をかけると台湾産の高級烏龍茶にこの名称があるが、これか?]