三味線の子 山之口貘
三味線の子
島の歌 島の歌
島は三味線の子!
若い男は歌つてゐる流暢で粗野な聲
三味線の音は、人々の胸に永遠に祕む悲哀を魅する心
島の歌 島の歌
若い男は細い目にからだを動かしながら調子をとる
人々の歌ふまゝの呼吸は島――
私は聞いてゐる永遠を永遠へ流れる感情の征服者の聲音
三味線の音は人々に温順な惡魔
[やぶちゃん注:大正一一(一九二二)年八月二十一日附『八重山新報』に掲載された。ペン・ネームは「三路生」。この直後のバクさん十九歳の秋、画家を志して最初の上京を果した。いわば現存する出郷直前の一篇である。「三味線」は「さんしん」と読みたくなるが、ウィキの「三線」によれば、「さんしん」は必ずしも沖繩方言の絶対的汎用語ではなく、バクさんのテリトリーであった首里周辺では「三味線(しゃみせん)」の呼称が併存していたことが分かる。]
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