杉田久女句集 259 花衣 ⅩⅩⅦ
タラバ蟹を貰ふ 二句
大釜の湯鳴りたのしみ蟹うでん
大鍋をはみ出す脚よ蟹うでる
或家の初盆に 四句
うつしゑの笑めるが如し魂迎へ
美しき蓮華燈籠も灯を入るゝ
[やぶちゃん注:「燈籠」「灯」は底本の用字。次句も同じ。]
玄關を入るより燈籠灯りゐし
露の灯にまみゆる機なく逝きませり
出生地鹿児島 五句
朱欒咲く五月となれば日の光り
朱欒咲く五月の空は瑠璃のごと
天碧し盧橘(ろきつ)は軒をうづめ咲く
[やぶちゃん注:「盧橘」はミカン属ナツミカン
Citrus natsudaidai 又はミカン科キンカン属
Fortunella のキンカン類の別名で、食用柑橘類を広く総称する語としても用いられる。ここでは五月の初夏の句で季語は「天碧し」(「盧橘」は実のつく秋の季語)、「うづめ咲く」とあるから初夏に白い花をつけるキンカンである。]
花朱欒こぼれ咲く戸にすむ樂し
風かほり香欒(ざぼん)咲く戸を訪ふは誰ぞ
南國の五月はたのし花朱欒