橋本多佳子句集「紅絲」 忌月Ⅲ
秋燕となりて一日(いちにち)天にばかり
秋の蝶吾過ぐるとき翅ゆるめよ
霧中にみな隠れゆく燈(ひ)も隠る
いなづまに誘はれ飛びて蝶はづかし
頭(づ)あぐればかなしさ集ふ野分あと
白露やわが在りし椅子あたゝかに
荒百舌鳥や涙たまれば泣きにけり
百舌鳥の下みな雨ぬれし墓ばかり
墓と共に花野に隠れゐたかりし
傘いつも前風ふせぎ雨の百舌鳥
秋風や鶺鴒二つ飛びたる白
断崖や激しき百舌鳥に支へられ
叫びても翅濡る雨のの百舌鳥なれば
老いよとや赤き林檎を掌に享くる