萩原朔太郎「ソライロノハナ」より「何處へ行く」(26) その日頃
その日頃
わが少女捕虜(とりこ)のごとくくゝられて
鞭もて打たれ泣きたしといふ
西洋の花なる故にダリヤの花
を好みたる人、その人いまい
づれにありや
眠むたげに尚キスせんと言ふ人の
側へにありて午後の茶を飮む
古めきし我が洋館のバルコニに
晝も夢みる人と住みにき
かあてんも動かずなりし八月の
午後を我等はキスして居たりき
窓あけよ餘り我等が長き日に
空氣も今は重くしづめり
[やぶちゃん注:いつもと同じく、最後の一首の次行に、前の「重くしづめり」の「づ」の左位置から下方に向って、最後に以前に示した黒い二個の四角と長方形の特殊なバーが配されて、「その日頃」歌群の終了を示している。これで大歌群「何處え行く」は終わる。]
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