人生と食後 山之口貘
人生と食後
氣まづい金借り勞働と
勇敢な食事勞働と
おもたい溜息の勞働とは
人生の理論となり
食後の
瞬間
亂暴人と盜人との人生觀が消え
未練もなくとろんと消え
天井からは
無欲がおつこちて
五月蠅ひねくれ病が癒え
はては豚のごとゐねむり
私は
人肉を喰つた鬼の休息!
ふと氣づきますると
つめたい
つめたい後生がやつて來て
部屋の眞中の
火鉢が
縮む。
[やぶちゃん注:初出は大正一四(一九二五)年九月号『沖繩教育』(同誌は沖繩縣教育事務所発行)で、掲載誌の目次は「詩二篇」とあって次の「まひる」とともに掲載されている。ペン・ネームは山之口貘。推定するにこの二篇が二度目の上京前後のこの時期の現存する沖繩のメディアへの最後の投稿詩であると思われる。バクさん、二十二歳。]