橋本多佳子句集「紅絲」 祭笛(Ⅱ) 田辺流燈
榎本冬一郎氏に誘はれて、その故郷紀州
田辺に流燈を見る 三句
一束の地の迎火に照らさるゝ
流燈を灯して抱くかりそめに
近村の人々精霊に捧げし燈籠を集め波打
際に焚く、焰炎々と幾ケ所にもあがり、
夜更くるまで続く
焰の中蓮燈籠の燃ゆるなり
[やぶちゃん注:「榎本冬一郎」(えのもとふゆいちろう 明治四〇(一九〇七)年~昭和五七(一九八二)年)和歌山県生。『馬酔木』(山口誓子選)に投句して誓子に師事、誓子の『馬酔木』離脱とともに「天狼」創刊に同人として参加、別に『群蜂』(ぐんぽう)を創刊、没年まで主宰した。作品を示す。
ぎらぎら青し泥より芦立つ血族婚
尾てい骨で坐る赤ん坊の星祭
メーデーの中やうしなふおのれの顔
根の国の祖(おや)への道のとりかぶと
凍蝶のいまわのきわの大伽藍
以上は引用句も含め、「俳句舎の俳人名鑑」の記載に拠った。]