雷とおへそ 山之口貘
雷とおへそ
むかしの人はふしぎなことをいう
うちのおばあさんがそうなのだ
ピカピカ光るとおそれをなすみたいに
雷さまが来たといい
ゴロゴロ鳴るとふるえるみたいに
くわばらくわばらととなえるのだ
暑くて暑くてたまらない日のことだった
ぼくはすっぱだかになったまゝ
いつのまにやら昼寝をしていたのだが
ゴロゴロ鳴り出したので目がさめた
するとのこのこおばあさんがやって来て
それみたことか雷さまだ
ゴロゴロ怒ってはだかん坊の
おへそをとりに来たんだというのだ
ぼくはチェッ!
雷さまがなんだいと起きあがって
電気のくせに神さまぶるな
こちらは人間さまだといばったとたんに
ピカピカゴロゴロ襲って来たので
ふたりはおもわず首をちゞめ
ふたりでくわばらくわばらだ。
[やぶちゃん注:初出は昭和三〇(一九五五)年七月号『小学五年生』。バクさん五十一歳。児童詩ながら、どこかこの主人公の少年はバクさんのような気がしてならない。遠い日の沖繩の幼少期のバクさんの思い出に繫がるもののように私には思われてならないのである。]
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