飯田蛇笏 靈芝 昭和十一年(百七十八句) Ⅻ
かたぶきて陽のさす楢の宿雪かな
[やぶちゃん注:「宿雪」は「ねゆき」(根雪)と読ませていよう。]
積雪に夕空碧み雲の風
樺の雪幽らめて樅の巨陽いづ
[やぶちゃん注:「幽らめて」は「くらめて」と読んでいよう。]
凍花映ゆ鏡の罅(ひゞ)に年惜しむ
[やぶちゃん注:「凍花」は「いてばな」と読んでいよう。]
温室べなる水の凍光苣枯るゝ
[やぶちゃん注:「苣」キク目キク科アキノノゲシ属チシャ
Lactuca sativa 。ちさ。レタス。]
月中の怪に射かけたる獵夫かな
夕濕める田廬の冬灯滿ち足りぬ
聖樹灯り水のごとくに月夜かな
凍揚羽翅のちぎれては梢より
手どりたる寒の大鯉光りさす
しろたへの鞠のごとくに竈猫
荒神は瞬きたまひ竈猫
註。荒神は金神のなまり。
[やぶちゃん注:「金神」は「こんじん」と読み、方位神の一つであるが「荒神」でも分かる通り、荒ぶる神である。金神(荒神)信仰は西日本に多いが、甲府にも荒神堂が確認出来る。ウィキの「荒神」によれば、『不浄や災難を除去する神とされることから、火と竈の神として信仰され、かまど神として祭られることが多い。これは日本では台所やかまどが最も清浄なる場所であることから、しだいに俗間で信仰されるようになったものである』とあるから、これは厨に祀られた荒神で、しかもそこにある荒神棚の実際の華燭などの「瞬き」というよりも、竈にもぐりこんだ猫の仕草や表情などに感じたイメージとしての「瞬き」で、蛇笏得意の鬼趣の句と私は読む。]
好色の書に深窻の冬來る
冬薔薇に土の香たかくなりにけり
毛糸編む牀に愛猫ゆめうつゝ
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